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寂しい

夜、バスに乗った。

空いていた一番前の座席に座ると、
次の停留所で女性が一人で乗り込んできた。
年の頃は40~50代くらいだろうか。

女性は運転手に何やら話しかけている。
最初は切符でも買うつもりなのかと思ったが、
バスが発車して次の停留所、そのまた次を過ぎても、
話が終わる気配はない。

帰宅ラッシュを過ぎた夜の車内はガラガラ。
それでも女性は席に着こうとしない。
運転席に張り付いたままだ。

声ははっきりとは聞き取れないし
フランス語もわからないので全容は掴めないが、
どうやら話題はバスとはまったく関係ない。世間話のようだ。

話しているのは九分九厘女性の方で、
運転手は当然だが前を見ながら、
時折苦笑い混じりの相槌を打っているだけ。

そう。

彼女は単に、誰かに話を聞いて欲しいのだ。

初めて会った、そして恐らく二度と会うこともない彼女に
どんな事情があるのかはもちろん知る由もない。

だが何か話が終わるのを恐れているようにさえ見える彼女の横顔は、
ある種の寂しさを湛えていた。

突然見知らぬおばさんの話の聞き役に任命された
運転手にとっては災難だろうが。

結局彼女は、20分以上して私がバスを降りても、
まだずっと運転手に語りかけていた。

もしかしたら彼女には目的のバス停すらなくて、
ただ「話をするために」バスに乗ったのかも知れない。


バスを降り帰宅した私は、夕食に焼きうどんを作った。
フライパンの中で麺をほぐしながらIHの火にかける。

「おいおい、君、元気過ぎるんちゃうか」

気が付くと、
勢い余ってフライパンを飛び出したうどんに話しかけていた。


パリに赴任してから2年余りが経った。

初めての海外生活、しかも初めての一人暮らしだったが、
今まで一度も寂しいなどと感じたことはない。

と、思っていた。


自問自答。

うどんは、相槌も打たない。




# by j-tracy | 2011-03-08 11:24 | 日々 | Trackback | Comments(2) 

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